「1つ目から鱗が落ちた」
「なんだよ」
「子供の頃、オヤジはベンチャーズのファンで、毎週日曜になるとレコードをかけていた」
「それで?」
「ビートルズのファンでは無かった」
「それにどんな意味があるのだ?」
「ベンチャーズとビートルズの最大の違いは何か」
「難しいな」
「難しく考えてはいかん。子供にも分かるようなことだ」
「なんだろう?」
「ベンチャーズにはボーカルが無い」
「それがどうしたんだよ」
「だからさ。ボーカルがないロックはXXを入れないコーヒーみたいなものだ……という文化とは違う場所にいたわけだ」
「それで?」
「だから、中学時代、ビートルズっていいぞと高圧的に攻めてくる相手に対して、『ぜんぜん良さが分からない。むしろ富田勲の惑星の方がドキドキする』と思ったのも当然。ボーカル無しで過激な音楽で攻めてこられるとそっちの方が快感。起点はあくまでベンチャーズと思えば良く分かる」
「それで?」
「その価値観の中ではボーカルも楽器の1つ。必要があれば入るし、無ければ入らない。なんら特権性を持たない」
「何がいいたい?」
「結局、ヤマト音楽もその文脈上にあるわけだ。交響組曲に合唱曲が入っていても、声は『ラーラララー』とラしか言わない。声も楽器なんだよ。それはビートルズではなくベンチャーズを起点とした自分にはすんなりと受け入れられた」
「スキャットも人の声が一種の楽器みたいだしね」
ベンチャーズ §
「あえて質問する。ベンチャーズってなに?」
「これだ」
VIDEO
「ぷるぷるぷる……って嘘付け!」
「すまん、これだ」
VIDEO
「それで?」
「オヤジがよく日曜日にレコードを掛けていた。なので子供としては覚えてしまった」
「無駄なことを覚え込むのが子供ってことだね」
「で。予備校生時代。友達が顔色を変えて『ベンチャーズって凄いのがあるんだぜ』と言いながらやってきて、口まねでこの曲を少しやった」
「それで?」
「その後を引き取って、口まねで延々と続きをやってやったら更に顔色が変わった。それっきりベンチャーズの話はしなかった」
「ひ~。それってなんていう嫌がらせ?」
「だってみんなの顔色が変わるようなバンドだなんて知らなかったんだよ」
オマケ §
「だからさ。CDプレイヤーを買った初期に買ったメガゾーン23のイメージアルバムは大オーケーだった。あれはボーカルが無いハードロックだけど、ボーカルが無いことはこちらにとって常態だったのだ。むしろ、しゃしゃり出てくるボーカルが邪魔だった」
「えー。主役じゃなくて邪魔なのかよ」
「特にロック系だとバックバンドは上手いのにボーカルがねえ、というケースがけっこうあった。ボーカルのルックスで売ってるからだろう」
「ひ~」
オマケ2 §
「エレキの音は嫌いじゃないぜ」
「それもベンチャーズに刷り込まれた子供時代のおかげか」
「アーコスティックギターも、完結編のギターとか好きだ。でもさ。エレキギターも嫌いじゃない」
「ってことは、びゅいーんって音でいいわけ?」
「だからギターのソロパートとか聞くのは嫌いじゃ無い。むしろボーカルよりそっちが見どころだと思ってるぐらいだ」
「ひ~」
「だからさ。いいギターが聞きたいのに無粋な音を被せてくるボーカルが邪魔に思えるのだ」
「ひ~」
「もっともね。ボーカルも上手ければいいの。ささきいさおさんとか、十分に魅力があるからそれはそれでいいわけ。でも、学芸会の人気ロックバンドのコピーとか、ファッションとか気持は入っていても肝心な音は……ということになるわけ」
「見てきたように言うね」
「見てきたんだよ、こちとら中学時代の2年半放送委員だ。学芸会で彼らのためにマイクを準備するのは我々の仕事だったのだ。仕事だからマイクを準備するけど、結果として流れる音がどうなるかは本人次第」
「それで?」
「一方で、音楽の授業の前後の休み時間に好き勝手にグランドピアノを弾いていた女の子のピアノは上手かった」
「ボーカルが必須じゃない価値観がますます強化されるわけだね」
オマケIII §
「しかし、こちらをオタクだと思っている連中は、ベンチャーズを聞いて育ったなどと想像もできないだろうな」
「わははは」
「ついでに言えば、『ビートルズは素晴らしい』と思い込んだ信者も、別の経路で育った人間がいるとも思わないだろうな」
「ジャズでもクラシックでもないベンチャーズ経由ってことだね」
オマケ2199 §
「今突然目から鱗が落ちた」
「なんだよ」
「宮川彬良さんは『ヤマトの音楽はプログレッシブロック』だと言った」
「それで?」
「WikiPediaのプログレッシブ・ロックに『歌が短く演奏重視で、インストゥルメンタルの楽曲も多い』と書いてある」
「なるほど。オフボーカル当たり前ってことだね」
オマケ2012 §
「というわけで、ベンチャーズのジャパンツアー2012の馬事公苑の公演を聞いてきたぞ」
「それで感想は?」
「さすがに古いから、些細なところでは『あれ?』という箇所はある。しかし、ほとんどこれで大オーケーだっ。過不足が無く、ピッタリとはまった。別の他人のことは知らないが、自分の原点はベンチャーズだ。これで確定だろう」
「他には?」
「ドラムとベースも良かった。特に、アンコールで見せたドラムの一級品のソロは凄かった。ドラムだけで長い時間をもたせてしまうのだからな。そして、そういう芸を見せるリズム重視のベンチャーズが基本にあることは、まさにリズム人間の自分がここにある理由なのだろう」
「ベンチャーズ派ってことでいいの?」
「いや。ベンチャーズは無自覚の内に刷り込まれた音。自覚したのはヤマト音楽」
「結局ヤマトかよ」
「自分で選んだ音楽の原点は間違いなくヤマト」
オマケゴーホーム §
「どうでもいいけど、この写真が凝っている」
「どうして?」
「フレドリック・ブラウンの火星人ゴーホーム(MARTIANS, GO HOME)があるので、火星に降りたアメリカの探査機に対して、火星人がヤンキー(アメリカの侮蔑的呼称)にゴーホームと言っているのだが、実は立場を逆転したパロディにした結果、元々あった"YANKEE, GO HOME"と言う言葉と結果的に同じになっている。実に皮肉で楽しいぞ」
「なぜそう言いきれるの?」
「下の看板にMARS FOR MARTIANSと書いてある通り、MARTIANSを意識してるわけだ」
「MARTIANS, GO HOMEのMARTIANSと同じってことだね」